ねこのひとみ

本や映画の内容を忘れないようにする

猫の瞳

書くことについて ☆☆☆

本書はタイトル通りスティーブン・キングがこれまでの経験から「書くことについて」を語った本ですが、私はスティーブン・キングの小説を読んだことがありません。でも、小説を書くことに興味を持っていたのと、有名な作家ということは知っていたので手を伸ばしてみました。結果、読んでよかったと思います。

 

最初は履歴書という章タイトルで、スティーブン・キングのこれまでの人生を振り返った半生が語られていました。アメリカの生活ついてよく理解してないので若干読みにくい部分がありましたが、一つ言えることは子供の頃から小説をとにかく書いていたことです。どんな環境でも小説を書くことをやめなかった。このことをスティーブン・キングは救いだったと言っています。小説を書くことは、救いであり、人生を幸せにするものだったと、あとがきの「生きることについて」で特に語られていました。

そこまで言えるのはそれこそ書くことに人生を捧げているからだろうと思います。

でなければ、こんな言葉は出てこないだろうでしょう。

 

後半では小説を書く時に彼自身が気をつけていたり、てスティーブン・キングの作品を実例に挙げながら、書くための環境、状況設定、人物描写、ストーリー、バックグラウンド(背景情報)といったものをどう生み出し肉付けをしていくのかが詳しく語られていました。スティーブン・キングは私が行っているだけであって全てが正しいわけではないが参考になればといった感じで謙虚に語っていますが、小説をかく人ならば参考にできる部分は多々あるかと思います。(ただし本気で作家として大成したい人にしか出来ない部分もあり。)

ぜひ、小説を書くという方には読んで参考にしてもらいたい本です。

 

 

そして私がこの本を読んで影響を受けた部分ですが、それは文法についてです。文法をスティーブン・キングは道具箱として表現しており、小説を書くための前段階の準備で必要なものとしています。そして、不必要に形容詞、副詞はいらないといったことが書かれていましたが、わたしはこれまで小説を読むときに気にもしていなかった文章自体が気になるようになりました。形容詞・副詞といった文法とはまた違うのですが、とある冒険アクション小説の文章を紹介したいと思います。

 

物語の主人公は優秀な暗殺者です。そして気になったのは、ベランダからロープを伝って下の階のベランダへと降りる描写の記述。「(主人公は)ロープだけを使いどこにも触れずに下の階に降りた。しかも、着地の音もしなかった。」という部分です。ここで「しかも」という言葉が気にかかりました。主人公はその業界では凄腕の暗殺者であるとしているのに「しかも」だなんて言葉を使って変に技能を誇張して表現すると一気に主人公の技能が陳腐に感じられるのではないか。プロフェッショナルなのだから足音を立てないで着地するはむしろ当たり前という感じで「ロープだけを使いどこにも触れずに降りた。足音はしなかった。」といった具合のほうが主人公の技量が高いことがより読者に伝わってくるんじゃないだろうかと。もしこれが素人の一般人が主人公の行為を見ているという場面で「彼はロープを伝って下の階に降りていった。しかも着地の時に足音はしなかった」だと一般人が彼の隠密行動の技能に驚いているということになるから、それだったら「しかも」は効いてくると思う。誰の視点でそれが語られているのかで表現の仕方を変えるべきあり、今回は主人公の行動を見ているのは主人公の元同僚であり同じく工作員を生業としている人物。つまり一般人の主観ではなく俯瞰であるので「しかも」という副詞が鼻について本の世界から現実に引き戻されてしまうのではと思いました。

こういうことが気になるようになったのはこの「書くということ」を読んだからだろうなとその時思いました。そして小説を書くという事はほんの些細な言葉でも最新の注意を払って言葉を綴っていかなければならない作業なのだなと実感しました。